擬 人 化 世 界

日本には古くから動物や植物、魚、器物などの異類(非人類)たちの物語世界が数多く描かれてきました。
有名な『鳥獣戯画』や『付喪神(つくもがみ)記』もその類です。
物語のテーマは恋愛・合戦がメインです。
…中世だと、オチにだいたい出家遁世がつきます。
近世になるとほかにも趣向が凝らされてきます。…

異類オンリーの世界では純粋に擬人化世界が展開しますが、
人間との交流を描く物語ではむしろ異類が人間に変身して人間世界に介入するものが中心となります。
異類の中に妖怪変化の類を含めるならば退治が主要テーマに加わります。
ここでは妖怪変化はまずおいて、
もっぱら擬人化世界の異類たちを取り上げたいと思います。

解説

なお、近代、特に昭和以降は欧米のSF・ファンタジーや特撮物の影響が著しく、系統的にお手上げですorz

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異 類 の 姿

1 異類型…異類の姿のままのもの
『鳥獣戯画』のように、古代から見られます。
『今昔物語集』には〈板〉の姿の化け物を〈鬼〉と呼んでいます。
中世後期〜近世初期に作られた『四生(ししょう)(鳥・獣・虫・魚)の歌合』が好例。
野生のままのもの/人間の服装をするもの
どちらもいます。
後者の場合、手足は伸びることはあっても、基本、動物のままです(下図参照)。
両者を同一に扱っていますが、やはり不適当かと思っています。
追って区別して再提示したいと思います。すみません。
現代ではファンタジー系作品に登場する使い魔(「ゼロ魔」とか「ネギま」のオコジョとか)が基本的にこのタイプですね

当世はる風抜形帳(幕末期)

2 変身型…人間に変身するもの
人獣交渉の基本形です。古代から見られます。
三輪山神話(大蛇)や狐との婚姻譚をはじめとして、世界中に広く分布。
平生、人間/異類どちらかの完全形なので、ストーリーを設定しないと判断つきません。
現代では恋愛物のメインは異界人も多いようですね(シャナとか)。SFなら宇宙人とのCLも。
しかし人魚(瀬戸の花嫁)や龍(ドラゴンクライシス)、十二支の動物(フルーツバスケット)などの変身譚もけっこうあります。


3 一部痕跡型…人間の姿だが、身体の一部に異類の痕跡を残すもの
人獣交渉の基本ですが、正体がバレるオチになっている時にこのタイプが出てきます。
狐や狸が尻尾をあらわして退治されるという話は多いですね。
現代では古典的な趣向でしょうか。「いぬかみっ」は王道をいっていました。九尾の狐も出てくるし。
それに加えて耳キャライベント‘みみけっと’に代表されるように、異類の痕跡があることを承知の上で、
ある種の美少女キャラが強い支持を得ている現在は、これまでにない新傾向を示しているといえるかもしれません。


4 頭部異類型…頭部が異類、胴体部が人間のもの
 中世後期以降、多く見られます。
東博やサントリー美術館所蔵の『鼠の草子絵巻』が好例(絵葉書や口語訳本あり)。
現代ではせいぜい悪役や脇役に見られるくらいでしょうか。恋愛物の主役は無理ですねw
脇役としては「瀬戸の花嫁」のエラ呼吸三人衆(マグロ・ブリ・アジ)が挙げられます。ただし人間に変身しきれない不完全形として。

馬人絵像(佐谷等雲斎画)

大寄噺尻馬第4編 青物づくし(幕末期)

新板魚類精進ゑんむすび女夫(めおと)くらべ(明治期)

5 胴体異類型…頭部が人間、胴体部が異類のもの
地獄絵図に多く見られます。人面犬・人面馬など。
人間時代の悪業の報いであわれにもこんな姿に、ということになります。
だから昔から懺悔物メインで恋愛物にはありません。
人面魚とか人面瘡とか、今ではもはや怪談や都市伝説の専売ですね。

6 異類着装型…頭部や背部に異類を示すものがあるもの
 中世後期以降、見られます。
ちょっと文字では説明しづらいのですが、要は魚の擬人化なら魚、犬の擬人化なら犬を帽子代わりにかぶっています。
絵入版本の『魚太平記』が好例ですが、入手しづらいかも。
中世後期の風流(ふりゅう)系の舞の装飾に類似例が見られるので、その影響かもしれません。
現代ではさすがに見られないようです。

7 異類基盤型…異類の胴体に人間の手足や顔がつくもの
器物の擬人化に多くみられます。これも中世後期以降、見られます。
『付喪神記』が好例。
近世以降の猿蟹合戦の絵本にみられる臼もそうですね。
近世には〈恐さ〉よりも〈ユーモア〉溢れる妖怪がたくさん創造されますが、その中でこのタイプもどんどん増えていきます。
近世にはいると、更に単独の器物だけでなく、複数の器物の合体形もあらわれます(下図参照)。
現代では欧米の子供向け作品(「機関車トーマス」とか「カーズ」とか)に人気があって、日本の作品でも、もっぱら子供絵本に追いやられてしまったようです。

世帯平記雑具噺(せたいへいきがらくたばなし)

8 人体基盤型…人間の姿を基盤にして、異類の特徴が随所に表れているもの
近世以降、多くみられます。
ただ、作品によっては完全に人間化しているものもあります。
たとえば黄表紙『御存商売物(ごぞんじしょうばいもの)』は書籍を擬人化したものです。
赤本・青本・洒落本・一枚絵などなどいろいろ登場します。
キャラの差異化は着物の紋に「赤」とか「青」とか表紙のデザインとかで表しています。
ここまでくると、基盤ということではなく、完全に人間化されているので、区別が必要かも、です。
なお古代・中世にも見られないことはないのですが、鬼や妖怪の姿であって、擬人化とは違います。
現代で最も多いタイプでしょう。ヒーロー物の悪役はたいていこのタイプですね(厳密にいえば擬人化ではなく、異類に着想を得ているだけですが)。
「セーラームーン」に出てきたウトンベリノなんて海苔弁当(ノリベントウ)ですからw
とくに同人誌の領域はすごいです。
回転寿司の擬人化があるくらいですから、もはや今日は何でもあり、の観が強いですね。
手許の本を漁ってみると…
自動車擬人化・鉄道擬人化・飛行機擬人化・兵器擬人化・カメラ擬人化・昆虫擬人化・動物擬人化・果物擬人化
…などありました。メジャーでは国家擬人化(ヘタリア)・空き缶擬人化(アキアン!)が有名ですね。
特徴を一言でいえば、美少女化ということでしょう。その意味で「ヘタリア」は異色作ということになります(むしろBL入ってます)。