和 歌  連 歌  俳 諧

鳥・獣・虫・魚の四生のほか、生き物たちが詠んだものを挙げます。

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とり

【アヒル】
わかれては涙流しのせせなぎに うきぬしづみぬねをぞなくなる(鳥の歌合)

【ウグイス】
きくからに身のけもよだつうそひめの ひくことのねにかよふこひかぜ(鳥の歌合)
酒の壺ひつさげつつもこひたちて 我は顔にもうたふうぐひす(勧学院物語)

【ウズラ】
ささげぬるうづらごろものみじかくて ひとへにうすしきてすすめただ(勧学院物語)

【オシドリ】
見じきかじ心にかけじあじろ縄 引きてやるてに物おもへとや(鳥の歌合)
のみくらす酒にゑひふす物ならば よるのふすまををしかへせばや(勧学院物語)

【カシドリ】
こしよりも下に心をかけわなの いとをしげにもさぐるいせしやう(鳥の歌合)

【カラス】

音にのみきくの白露いつのまに 淵とはなりて浮きしづむらん(鴉鷺合戦物語)
うば玉に書く玉章のかひあらば 我にはうつせ君が心を(鴉鷺合戦物語)
伊勢熊野なをよびからすこゑをだに 君はしぶとくきかぬものかな(鳥の歌合)
てりそへてあつさはたえぬ夏の日に 雀といふにいかにころさん(勧学院物語)
しばしこそ木の葉を覆ふ谷川のきよきながれはいつもかはらじ(山家一休)
今こそは生死の障りをあけがらす(山家一休)

【カリ】
たまたまのあつまりのざにいづるとて はれの衣を人にかりがね(勧学院物語)

【カワセミ(ヒスイ)】
わがみにはおしきひすいのかんざしを たてまつりつついはふなりけり(勧学院物語)

【キジ】

わがこひは野山をかけてけいやくの けいとはなけどほろろとぞなる(鳥の歌合)
うき事ののがれて今はよろこびの 涙ほろろとおちそふるなり(勧学院物語)

【クイナ】
たたきやめばくいなん事もならざかや このていになるふたおもひかな(鳥の歌合)

【クグイ】
梓弓 鳥はふる巣の名のみして 帰らぬ道に立ち出るかな(鴉鷺合戦物語)

【クマタカ】

よくふかく またさくるとも うそひめの こなたかなたの こひははなさじ(鳥の歌合)

【コウモリ】
おもひでに君こうもりと身をなさば しかみつらしてとらんこれしき(鳥の歌合)

【コマドリ】
うそひめはきた風にのるこまどりの やぶしがくれになくこゑもせで(鳥の歌合)

【サギ】

よしやただ淵とも積れ涙川 うき沈むとも逢瀬あらめや(鴉鷺合戦物語)
終にわが住むべき山の寂しさを 今よりならふ 軒の松風(鴉鷺合戦物語)
しひるともこゐにかなはぬさけのまし 打ちねぶりては物をしらさぎ(勧学院物語)

【シジュウカラ】
あさゆふにちんちんからりからからと わらふやうにてなきかはすかな(鳥の歌合)

【シトド】→【スズメ】参照
あめにしとどぬれてもはまじあはできびの わるさにまよふしのぶほそ道(鳥の歌合)
笛をしも忘れてまかりいだてれば たたうぞふきてまはせこそすれ(勧学院物語)

【シャクシギ】
のちのちはさもあらんとてしばしなを しやくぬきてこそ酒のみもせね(勧学院物語)

【スズメ】

寄り人は今ぞよりくる長はまや葦毛の駒に手綱ゆりかけ(鴉鷺合戦物語)*口寄せ巫女(シトド)による
世の中はとてもかくてもありぬべし 鷲くまたかの果報なりとも(鴉鷺合戦物語)*口寄せ巫女(シトド)による
子を思ふ涙の雨の蓑の上に うとうと鳴くはやすかたの鳥(鴉鷺合戦物語)*口寄せ巫女(シトド)による
身のわざの賤しきのみか心さへ かたかまかけし 履(くつ)て盗人(鴉鷺合戦物語)
ゆきの日はせめて人めのちかくとも おなじのき場に君とすまばや(鳥の歌合)
こかこかといふことのはに打ちほれて からすをおやとたのみぬるかな(勧学院物語)
ゆるすとはいはれけれども蛇心 まかるはさらにたのまざりけり(勧学院物語)

【チドリ】
君があたり見つつおふらんとも千鳥 はねはなかけそ名をばよぶとも(鳥の歌合)

【ツグミ】
のみゑひて乱舞の声のたえたるを われこそ唄ふつぐみなりけれ(勧学院物語)

【ツバメ】
いくとせか春きてあきにたちかへる なごりしのぶのやまのうそひめ(鳥の歌合)

【ツル】
巣に帰る鳥べの道と思ひなば さのみ別れの悲しからじを(鴉鷺合戦物語)
なき人の苔の下道いづちとか 習はぬ旅に袖ぬらすらん(鴉鷺合戦物語)
あしながく見ぐるしけれどとびたちて まひかなつるやおかしかるらん(勧学院物語)

【トビ】
はしぶとに日よりよかれとねがへども 君はつれなくふりごころかな(鳥の歌合)

【トリ(鶏)】→【ニワトリ】

【ニワトリ】
つれなしとゆふつけ鳥のなくなへに 影ほのめかす有明のつき(十二類絵巻)
君によりおもひぞならふ身のうへに あかぬわかれのむくふとりのね(鳥の歌合)
とりの音に夢うち覚めてひとりねの その暁は物うかりけり(十二支歌仙歌合色紙帖)
夜をこめておきいでつつもひとりまつ 嘉慶幸かけいかうとぞうたひそめける(勧学院物語)
元よりもさやけき月のありながら心のやみにまよひぬるかな(山家一休)

【ハト】
物おもふわが身にひたともち月の たちてもゐてもかげははなれず(鳥の歌合)
しいられてかなはぬ酒を飲むときは つううせつことおもひけるかな(勧学院物語)

【ヒガラ】
ひがら立ちてたまたまあふは優曇華の はなおしをすることぞうれしき(鳥の歌合)

【ヒスイ】→【カワセミ】

【ヒタキ】
すねにひをたきのしらいといく筋の 道が中にもこひのさまたげ(鳥の歌合)

【ヒワ】
とりどりのさたはありともおかしらに すがるま惜しく日はたけにけり(鳥の歌合)

【フクロウ】

物すごく今からこゑにうそひめの いねしこずゑをもりやまのかげ(鳥の歌合)

【ホオジロ】
さきのよのむくひあるかや みるたびにしたのねかはすちぎりなるらん(鳥の歌合)

【ホトトギス】
われをさへ二四八なけといふ人に きかせてしがなうそひめのこゑ(鳥の歌合)
さかもりにゑひぐるひもや有りもせん ただかへらんにしかじとぞ思ふ(勧学院物語)

【マシコ】
いぬのこがおやにはなれぬ身なりせば とがむる人にましこそはせめ(鳥の歌合)

【ミソサザイ】
きやうこつやいくたびうそをつきかねに ふくるをきけばくるしさぞます(鳥の歌合)

【ミヤコドリ】

わがおもふ心ばかりをかけ網の めに見ぬ世にもすみ田川かな(鳥の歌合)

【ムクドリ】
さりとてはとりつくばかり嘆けども 用ゐられざることのはのすゑ(鳥の歌合)

【モズ】
山烏 頭は白く成りぬとも かへさじものを 燕(えん)のつばくら(鴉鷺合戦物語)

【ヤマガラ】
うらみつつなくねにやがてくるみぞと まはすことばもうれしかりけり(鳥の歌合)

【ヤマドリ】
あしびきの山ぢにのぢをたつぬれど ながながしくもあはぬ君かな(鳥の歌合)
山鳥のほろのはつをのながきよの へたてもなくやまいりあふべき(勧学院物語)

【ワシ】

わがままの座敷になをりけふはなを 上みぬわしとおもひけるかな(勧学院物語)

けもの

【イタチ】

(新版獣づくし)
らうさいにかみはうつうついたちゐを みるに腰骨なへにけるかな(けだものの歌合)
寝て暮らす人ぞ深山の花の徳(獣太平記/木容堂作)

【イヌ】

(新版獣づくし)
里のいぬの月みる秋の夜半だにも ほしまもるとや人のおもはむ(十二類絵巻)
いぬ桜まづ山里に咲き初めて はやくもにほふ二月の比(十二支歌仙歌合色紙帖)
いつまでかたつきはなれぬおもかげや まほには見せぬ月ぞかなしき(けだものの歌合)

【イノシシ】

(新版獣づくし)
しながどり臥猪の床のやま風に 雲もさはらぬ月を見るかな(十二類絵巻)
いにしへは花に心をたはぶれて 今はむかしのあはれ□□□□[損傷](十二支歌仙歌合色紙帖)
 くみてしるなさけはいかにいかり井の ゑひにみだるる心こそすれ(けだものの歌合)
歌人や深山も京の花心(獣太平記/木容堂作)

【ウサギ】

(新版獣づくし)
あけ方の月のひかりの白うさぎ 耳にぞたかき松風のこゑ(十二類絵巻)
うき事の夢になり行く世なりせば 我がいにしへをおもひ合はせん(十二支歌仙歌合色紙帖)
鉄砲や鷲くまたかにくだり坂 きみ見るたびのむねぞ轟く(けだものの歌合)
やぶしたのちりちり河のごみかぶりしりがよぢれてをかしかりけり(かすむこまかた[菅江真澄])
へつらはぬ身もや深山の花の笑み(獣太平記/木容堂作)
ちの舟コァ、スーッとはすれ(走れ) ハァ、エンヤコラサノエー
泥の舟コァ、ザックリ裂げろ ハァ、エンヤコラサノエー
(「兎の敵討ず」むがす、むがす、あっとごぬ―宮城県北昔話集―

【ウシ】

(新版獣づくし)
むら雲のそらさだまらぬ月を見て 夜半のしぐれをうしとこそおもへ(十二類絵巻)
うしといふ世に住みながら露の身の きえてはかなき名をやながさん(十二支歌仙歌合色紙帖)
老いぬればはたらかぬ身をうしとだに いよいよおもふ中ぞくるしき(けだものの歌合)

【ウマ】
あふ坂やせきのこなたにまちいでて 夜半にこえぬる望月の駒(十二類絵巻)
むまれ来てうき世の中にながらへて 人かずならぬ事ぞ物うき(十二支歌仙歌合色紙帖)
塞翁が馬のたづなもひけばひく ひまゆく恋のみちはかなはず(けだものの歌合)
行く春の山なを近し花の奥(獣太平記/木容堂作)

【エンコウ】→【サル】

【オオカミ(オオカメ)】
ねたしさやいくたび人を大かめの 野ぢに日ぐれてかよふもぞ憂き(けだものの歌合)

【カワウソ】

水むすぶかひもなぎさのたはれをと たれかはうそを月のよごとに(けだものの歌合)

【キツネ】

(新版獣づくし)
枝ならぬ身なれば風もしらぬにや 花のすみ家と君はいへども(狐の草紙)
おもひきや今宵はじめの旅寝して 鳥の鳴く音をなげくべしとは(木幡狐)
わかれてもまたもあふ瀬にあるならば なみだの淵に身をやしづめん(木幡狐)
おもひいづる身はふか草のおきの葉に 露ぞしほるる我がたもとかな(木幡狐)
北まどやひるもみまくのほしのかげ しらじらしくもけなばけななん(けだものの歌合)

【クマ】

(新版獣づくし)
くましある心みやまのおくまでも あなまどはするこひの道かな(けだものの歌合)

【サル】

上もなきわしのみやまもふもとなる なゝのやしろもなのみのこれる(ゑんがく)
世の中ははかなきゆめをみつとりの はしふるつゆにやどる月影(ゑんがく)
みどり子のかたみをこゝにおくの院 しんしんとしてあはれなりけり(ゑんがく)
さるさはのいける身とてもたのまれず 心にかなふいのちならねば(ゑんがく)
月をのみさやまおろしはしぐるとも そらくもらざる秋のよもがな(十二類絵巻)
さるからに心ぼそくも聞こゆるは 山より奥の入相の鐘(十二支歌仙歌合色紙帖)
ふしまちやたちてもゐてももち月の おもかげはいざよひふかすまで(けだものの歌合)
よろづの物の中に猿こそすぐれたれやな。
春は花のちらざる、秋は月のくもらざる、
思ふ人にははなれざる、つらきめ人にはあはざる。
巴猿三叫、行人の裳をうるをす。
わりなくぞおぼゆる。
わびしらにましらなきそと、みつねが詠じけるも、やさしくぞきこゆる。
山王の侍者とも我をぞさだめ給へる、
年ごとの卯月には。我が日ぞみゆきなりける。
大行事と申すは則ち我がかたちよ。
神護寺の法花会、さるの教養とかやな。
五百の猿のはてこそ辟子仏となりしが、目出度く覚ゆる。(藤袋の草子・麻生本*猿の舞の歌)
木の枝にくくりさげたる袋には 殿の心のひく人ぞある(藤袋の草子・麻生本)
木の末にさがりてみゆる藤袋 いつくしがほの君やまします(藤袋の草子・麻生本)
愚かなり 枝に下がれる袋には いがみづらなる物ぞいりたる(藤袋の草子・麻生本)
縁はおかし 人を嫁にとりてゆく 猿の手がらな祝言の道(藤袋の草子・若林本)
縁はおかし とればとらるる姫君に 歌をよめりの道ぞにぎめく(藤袋の草子・若林本)
縁はおかし 不慮になれそふ姫と猿の つらのかわつた嫁入りのてい(藤袋の草子・若林本)
ささらする竹の一よに千代かけて 姫と契りはばんぜいばんぜい(藤袋の草子・若林本)
友ほしき深山の花や丸木橋(獣太平記/木容堂作)
雪と雲 花なら残れ山の奥(獣太平記/木容堂作) ※エンコウ

【シカ】
つまとみるはなをすがひてさをしかの なく声さへぞうらやまれぬる(けだものの歌合)
おそろしき深山も花をちからかな(獣太平記/木容堂作)

【タツ(竜)】
あまつ空うきたつ雲の心して 月をばさらぬよそのむらさめ(十二類絵巻)
たつからに霞の衣かさねきて 花の下ひもいつかとくべき(十二支歌仙歌合色紙帖)

【タヌキ】
ありてなほふすべらるべき身なりせば 野辺のけぶりとおもひ消えばや(十二類絵巻)
憂きことをおもひふくれしくやしさも わが腹つづみ うちぞ驚く(十二類絵巻)
犬の尾は兎のせなど よそに見て うらやまれいも 昔なりけり(十二類絵巻)
罪は雪 心は月の悟りこそ のぼりかねにし都なりけれ(十二類絵巻)
都路をいそがずもあれ春といへば 日の影いまはなかのなりけり(筆結物語)
けぶりたつしづがかきほのむめの花 色がすすけて山風ぞふく(筆結物語)
もはらうつ鼓の拍子かねごとも あはでこよひやねにたがふらん(けだものの歌合)
よろこびはいまのたぬきのはら鼓 うちおさまりし御代のかしこさ(鶏鼠物語)

【テン】
それ鐘の音せぬ山の花の栄え(獣太平記/木容堂作)

【トラ】

(新版獣づくし)
みるままに涙つゆちる月にしも とらふす野辺のあき風のこゑ(十二類絵巻)
とらは手にたまりもやせぬ秋の夜の 草葉の露にやどる月影(十二支歌仙歌合色紙帖)
きらはれて身はから竹の中となり ふしだつせにぞいのるかみがみ(けだものの歌合)
北嶺蒼々として旅鴈帰る 行軍眺望涙霏々たり(獣太平記/木容堂作)

【ネコ】
ふかみぐさあふといふなるしたばまで なをなつきよきいもとわが中(けだものの歌合)
よしェや(よせや)、よさねェが ほの(その)手は食わぬ
むがす(むかし)ほの手で ぬど(二度)だまされた
チャンコァ(猫は)、しょうべえ(商売)、しょうべえ
(「兎の敵討ず」むがす、むがす、あっとごぬ―宮城県北昔話集―

【ネズミ】

(新版獣づくし)
よもすがら秋のみそらをながむれば 月のねずみと身ぞなりぬへし(十二類絵巻)
ねてもうしさめてもつらき世の中に あるかひもなき我がすまゐかな(十二支歌仙歌合色紙帖)
たのまんといふことの葉にはかされて ふかきたにみつむすびあけけり(きりぎりすの物語)
おぐるまのかたはになるをあはれとも おもひわするなやるかたぞなき(きりぎりすの物語)
ちはやぶる神もほとけも御覧ぜよ 心とはせぬあやまちぞ君(きりぎりすの物語)
うれしさをなににたとへん月日へて しづはたおびのとけやすきころ(けだものの歌合)
このさど(里)さ ネゴさげェぐねェ(こないなら) おっかねェぐねェ(恐ろしくない)
しゃぐ(百)ねなっても ぬしゃぐ(二百)ぬなっても ニャーンどゆう声
ちじでェぐねェ(聞きたくない) ヨエショ、コラショ
(「焼じもず」むがす、むがす、あっとごぬ―宮城県北昔話集―

【ハツカネズミ】
奥山に歎くは愚痴か花の昼(獣太平記/木容堂作)

【ヒツジ】

(新版獣づくし)
めぐりきて月見る秋にまたなりぬ これやひつじのあゆみなるらむ(十二類絵巻)
ひつしほの波にゆられて行く船の よるべもしらぬ心地こそすれ(十二支歌仙歌合色紙帖)
たはれゆく情ともみよのみかはす ももやそくさのちぶさならねど(けだものの歌合)

【ブタ】

(新版獣づくし)
ねがはくは心ひとつにたふたふと うけ引く君のなさけくまばや(けだものの歌合)

【ムクロモチ】→【モグラ】

【モグラ(ムクロモチ)】
むつくりとあげつちのまは広けれど あなたのみがたあすの夜のこと(けだものの歌合)

【リス(リッス)】

(新版獣づくし)
かねつけてゑみをふくめるかほばせに こよひあふみのおちぐりの本(けだものの歌合)
山深し照る日降る日も花の雲(獣太平記/木容堂作)

【リュウ(竜)】→【タツ(竜)】

むし


【アシマドイ】
たのめでも君きまさねばゆくかひの あしまどひてやひきとどめなん(虫の歌合)

【アリ】
山深き朽木の中にありながら 峯の嵐を余所に聞くかな(こほろぎ物語)
なさけなき君が心は三つの山 熊野参りをしていのらまし(虫の歌合)

【イモムシ】
我が住みし芋の畑はあれにけり 今年の夏はひとりのみして(こほろぎ物語)
うらめしな君もわれにやならひけん ふりふりとしてつれなかりけり(虫の歌合)

【イモリ】
苔深き水の底にてもろともに かねふる里のいもりをぞする(こほろぎ物語)
立ちもせず下にもをらずさはがしく かへるかへるといふぞおかしき(こほろぎ物語)

【カ】
夕暮の軒の煙にたちまよひ 忍びかねたる身こそかなしき(こほろぎ物語)
しのびぢのこゑたてねどもゆふぐれは つれるかてふや夜半のせきもり(虫の歌合)

【カエル】
古里に立ちかへるとは知りながら 土かきわけてとふ人もなし(こほろぎ物語)
浅ましやすみの衣に身をそめて などかいろには深きいもりぞ(こほろぎ物語)
つれなさの人もうらめし数ならぬ 身をひきがいるねにやなかまし(虫の歌合)※ヒキガイル
敵よりも放つ矢さきは逃げずとも みかたの鰐の口は遁れん(魚太平記)
潮ともに飲める鯨の一息に 鰐も鰆もいかでのがれん(魚太平記)

【カゲロウ】
あはれなる夕べはかなきかげろふの 消ゆる命を露のひととき(こほろぎ物語)

【カマキリ】
草の葉をかまきり立ちてかる野辺の 露のうき身はおき所なし(こほろぎ物語)
ちぎりをきしゆふべもすぎぬわれならで 君がくるまをたれかとゞめし(虫の歌合)

【キコリムシ】
人しれぬ深山の奥に住みなれて 朝な夕なにつま木こりむし(こほろぎ物語)
としもへぬ思ひたきます君しあれば あふさか山になけきこりむし(虫の歌合)

【キリギリス】
こころざし深きたにみつむすびあげ たすくるきみぞうれしかりける(きりぎりすの物語)
くりのいがゑみたるきともしらずして やどりにしけんことぞかなしき(きりぎりすの物語)
とぢこもりなくにつけてもはづかしや くりのかはりと人やおもはん(きりぎりすの物語)
たえもせずなげきをりけんはた織りの いとうちはへてとぶぞうれしき(きりぎりすの物語)
すずむしのこゑふりたててわがために なくにつけても心ぐるしや(きりぎりすの物語)
たすくるはうれしけれどもおぐるまの かたはになれる身こそつらけれ(きりぎりすの物語)
いまさらにうらみもはてずこれも又 うき身のとがとおもひなされて(きりぎりすの物語)
いささかにきみが心をしりぬれば いかでわすれん千代はふるとも(きりぎりすの物語)
ささがにのいとのくりくり秋のよを むかしのねともなきあかしけん(きりぎりすの物語)
けふよりは深き思ひをきりぎりす なけどあはれととふ人もなし(こほろぎ物語)
わが恋はあふせの道やきりぎりす 壁にも君がおもかげをみず(虫の歌合)

【クツワムシ】
今よりはこりはてられよきりぎりす なげきはれける身ともなりなば(きりぎりすの物語)
物思ふ心のうちぞくつわむし 人の情をかけぬ身なれば(こほろぎ物語)
数ならでものを思ふもくつわむし さびてはならぬ恋とこそしれ(虫の歌合)

【クチナワ】→【ヘビ】

【クモ】
あやしくもかかるはかなき住ひせば とひ来る風の便りたになく(こほろぎ物語)
君くべきよひをば人につぐれども わがあふせにはうらなひもなし(虫の歌合)

【ゲジゲジ】
つれなさをおもひあまりて身にぞしる たれかとをりし君とわがなか(虫の歌合)

【ケムシ】
いかにせん我が身の毛むし中々に 人の見る目もさぞやはづかし(こほろぎ物語)
いかにせん身のむくひにやかくばかり さしつくやうにこひしかるらん(虫の歌合)

【ケラ】
下りつかに身はうづもれて過ぎけらし いづくも宿と定めざりけり(こほろぎ物語)
つれなさの君にぞ腹はたちにけり にくしつぐみのよろこびやせん(虫の歌合)

【ケラケラ】
よしなくも人のけらを請ひもせず 世のにくまるる身をくゆるかな(こほろぎ物語)

【コオロギ】
いとをしやなどさはなくぞきりぎりす いもの中にてさてやはつべき(きりぎりすの物語)
ここのすみ かしこの壁にすがりつき 身は数ならで君はこうろぎ(こほろぎ物語)
なかなかにあれてもよしや草のいほ いつこうろぎと君はたのめず(虫の歌合)

【コガネムシ】
山吹の色をあらそふ小金むし 草木もなひく光なりけり(こほろぎ物語)
つれなさの君にしあればこころみに わが名をそへておくるたまづさ(虫の歌合)

【シラミ】
思ふ事かきくどくまに長月の 夜はほとほととしらみこそすれ(こほろぎ物語)
せく心きみにつけてもとにかくに いひしらみなる身のあはれしれ(虫の歌合)

【スズムシ】
よもすがらこゑふりたてゝすずむしの 君もおもふにねこそなかるれ(きりぎりすの物語)
君にかくふりすてられし鈴虫の 我が身の果てやいかがなるらむ(こほろぎ物語)
などてかくたえぬ思ひをすずむしの ふりすてがたき恋路なるらん(虫の歌合)

【セミ】
はかなしや身はうつ蝉のから衣 猶うらめしき秋風ぞふく(こほろぎ物語)
なさけなくかたき心は石川や せみの小川に身をやなげなん(虫の歌合)
このきみのひさしかるべきためしには とりけだものもすみよしの京(鶏鼠物語)

【タマムシ】
色にこき千草の花の数々に 思ひみだるる露の玉虫(こほろぎ物語)

【チョウ】
花の色に心を見せてまよふてふ あはれと思へ草の葉の露(こほろぎ物語)
おもかげは花にねぶれる夜もすがら 君にあふせのゆめにさへなき(虫の歌合)

【トカゲ】
世を捨てて芝のとかげに引きこもり いかでや人のとくとなるべき(こほろぎ物語)

【トビムシ】
はねもなく行衛もしらぬ飛虫の おもはぬ淵に身をなげにけり(こほろぎ物語)

【ノミ】
ひとりのみ思ふ心も甲斐ぞなく とび立つばかり物ぞかなしき(こほろぎ物語)
心にはとびたつばかりなげけども わがくふほども君はかひなき(虫の歌合)

【ハエ(ハイ)】
玉だれのにしきの床の上までも はひあがるこそ果報なりけり(こほろぎ物語)
かつらぎの神にはかはるちぎりかな よるのあふせの身にはかなはず(虫の歌合)

【ハタオリ】
なげきけり(脱アルカ)おりつるはたおりのいとみだしたる心地こそすれ(きりぎりすの物語)
かた糸のはるばる野辺に繰り返し はた折りかけてなきあかすかな(こほろぎ物語)
まちくらす日はなかなかにしらいとの むすぼふるとも君やよりくる(虫の歌合)

【ハチ】
棹さしていつか渡らんみつせ川 はちすの船にのりをもとめて(こほろぎ物語)
心には針もちながらあふときは 口にみつある君そわびしき(虫の歌合)

【ヒキガエル(ヒキガイル)】→【カエル】

【ヒグラシ】
何となくけふは日暮あすは又 いかなるかたに身をやかくさん(こほろぎ物語)
よもすがら思ひあかして草の戸に ねをのみなきてまたはひぐらし(虫の歌合)

【ヘビ(クチナワ)】
いたづらに身を口なはとなりはてて たまふゑにしの便りだになし(こほろぎ物語)
おもへどもへだつる人やかぎならん 身はくちなわのいふかひもなし(虫の歌合)
つきみればうさもわするる秋の夜を ながしとおもふ人やなからむ(十二類絵巻)
みなかみは吉野の山や続くらむ 春の筏をくだす春風(十二支歌仙歌合色紙帖)
物をただうたがふこそはまよひなれ 明らかならぬ雀いろとき(勧学院物語)

【ホタル】
草の露 水の泡とも消えやらで 絶えぬ思ひにもゆる蛍火(こほろぎ物語)
しのびぢの闇にかしらはかくせども あとのひかりぞ人やとがめん(虫の歌合)

【マツムシ】
うちなげきあはれとおもふきりぎりす 今をかぎりとおもふこころを(きりぎりすの物語)
夜もすがら恋しき人をまつむしの 音をなきはぶる野辺ぞ露けき(こほろぎ物語)
あはれしれ月にや君がとふやとて くさの戸ざしをあけてまつむし(虫の歌合)

【ミノムシ】
恋わびて涙の袖に濡れにけり 我がみのむしはいきてかひなし(こほろぎ物語)
うらみわび涙のあめにぬれにけり わが身のむしはきてかひもなし(虫の歌合)

【ミミズ】
浅ましや頭も見えず尾もしれず 土の中には音をのみぞかし(こほろぎ物語)
このごろは土の中なるすまゐして 君がすがたもみみずなくなる(虫の歌合)

【ムカデ】
とにかくに世をばてむかで渡るべし 数多の足も頼れぬ身は(こほろぎ物語)
おもひやれひとりぬるよはわれからの あしのかずかず君ぞこひしき(虫の歌合)

【ヤスデ】
雨降ればかや目際に集まりて 心やすでと遊びぬるかな(こほろぎ物語)

さかな

【アカラ】
うなばらや素袍の袖も末広に 顔はあからの波の荒事(江戸の花海老)

【アジ】
そでのうへもなみだにさらすぬのびきの たきの名なれや(魚の歌合)

【アマダイ】
生きながら尾ひれに縄を懸けられて 恥に赤目をつる法師哉(魚太平記)

【アユ】
あづまがた 道はなみだに かきくれて もしほたきけつ あま人の けふのほそぬの むねあはで
きなれん事を うらみても うらみはつきじ 八百日ゆく はまのまさごの かぎりなければ(魚の歌合)

【アワビ】
かたいとをたちよるかたもおもひわび 物あはれにしひとりこそぬれ(魚の歌合)
ただひとりかたおもひにてゐたる身の かかるえにしにあふひうれしき(勧学院物語)
市川の若おとこぶしひとこぶし 時に鮑の名もこだまかぶ(江戸の花海老)

【アンコウ】
ねとられてあんごうつらのあをき名やたつなみ風にふきぬかれけん(魚の歌合)
あんかうの腹は何より大入りを 祝ふ千歳のつるしきり幕(江戸の花海老)

【イカ】
てればみなはる日のひるはなみはれて(魚の歌合)*回文の連歌第三句

【イシモチ】
小粒でも辛い山椒の吸ひ口や ちびき御贔屓おもき石もち(江戸の花海老)

【イトヨリ】
ひく人はたえずより来る糸よりの いとおしらしき子役荒事(江戸の花海老))

【イワシ】
君があたりめしよせらるるむらさきの いろになるまで身をこがすらん(魚の歌合)
よいよいと贔屓引幕上を下 たれもいはしのもれぬ大網(江戸の花海老)

【ウナギ】
山の芋ふちせにかはるなみだがは うきみとなりてなをながすらん(魚の歌合)

【ウバガイ】
としよりてなにはの事もしもゑねば ただ火をたかせ磯やうばがひ(勧学院物語)

【エイ(含、アカエイ)】
まなばしをたつる間もなき切り落とし 入りはその名もゑいとゑいとう(江戸の花海老)

【エソ】
ゑそすぎぬなみのかへさに引くあみは これや人めのせきぢならまし(魚の歌合)

【エビ】
ゑぢがたくひかりとも見よかく計り うきみにそへてたゑぬおもひを(魚の歌合)

【オオゴチ】→【コチ】

【オコゼ】
おもひあらば 玉藻の影に ねもしなん ひしきものには波をしつつも(山海相生物語)

【カキ】
わが姿みぐるししともしらずいま 座敷にゐでて恥をかきける(勧学院物語)

【カジカ】
ことのはもかはらぬかはのそこにゐて こひしき事のいはほとぞなる(魚の歌合)

【カツオ】
もしほぐさ かきあつめたる 音づれは なみのたよりに あふ心地する うら風ぞふく(魚の歌合)
こは色の高ねもまけぬ魚なれば かつほかつほとたれもみはやす(江戸の花海老)

【カニ】
からころもにしきのそでをかへしつつ うたたねにだにたのむおもかげ(魚の歌合)

【カメ】
よろづ代も島だいごくの上々と なるやその名の宝亀の子(江戸の花海老)

【カレイ】
吸物はかれいのほしをいただきて くるはにどめの匂ふ顔見世(江戸の花海老)

【キス(キスゴ)】
きゆるながとののどかなるゆき(魚の歌合)*回文の連歌脇句
せびらきし運も今日よりきすの子の この顔見世は外に中川(江戸の花海老)

【クジラ】
せつ汁の鯨の威勢ふるき名に かへてあがれや魚の親玉(江戸の花海老)

【クロダイ】
歯ばかりはちと白吉のかいづより まつ黒鯛に位さだまる(江戸の花海老)

【コイ】
などてかく道もかわらぬふな人や こひてふひれのさはぐあけくれ(魚の歌合)
河おもに春の山風吹き落ちて 波の花こそ盛りなりけれ(魚太平記)
赤目より落つる涙に淀川の 瀬や紅となりてながれん(魚太平記)
龍門の上下素袍家の紋 ほめますみますはや出世鯉(江戸の花海老)

【コチ(含、オオゴチ)】
きた風やくさはなはさくやせかたき(魚の歌合)*回文の連歌第五句
そのままの親に煮たての伊達者は そつちより又こちのかはむき(江戸の花海老)

【サケ】
おりはへてひとへにおもふきぬがはの なみのよるよるなさけともがな(魚の歌合)
親よりもうまい仕内やあぢさけの みは一ふくのひとつはらら子(江戸の花海老)

【サザエ】
三国にその名市川龍宮の 都を越してさざえがらまで(江戸の花海老)

【サバ】
月ひとおとこことをとひきつ(魚の歌合)*回文の連歌第四句
顔見世の切幕さつとさばの寿司 おされてひらく大入りの木戸(江戸の花海老)

【サメ】
しげるはのまややまのはるけし(魚の歌合)*回文の連歌第八句
明け烏はや顔見世のつみいれや 櫓太鼓に目はさめのうを(江戸の花海老)

【サヨリ】
しらるるはかなしきけなしとこやみや ことしなげきし中はるるらし(魚の歌合)
名びろめのめでたさよりの口上も 長いためしや魚のくちばし(江戸の花海老)

【サワラ】
やともとおしむむしをともとや(魚の歌合)回文の連歌第六句

【シラウオ】
しらうをや二筋三筋すぢぐまの そのいきほひを見よ四つ手あみ(江戸の花海老)

【シャチホコ】
どんどんとおしくる波の寄席太鼓 しやちほこつたる木戸の大入り(江戸の花海老)

【シラス】
しらじらししらするとてやうみづらに よろこびわたるこひのはてかな(魚の歌合)

【スオウガイ】
しゆつしするもめんぬのこのおもてをば 作りあかねにいますわうがひ(勧学院物語)

【スズキ(セイゴ)】

(フィギュア工房やませみ作)
うつりゆく 月日もしらず 杉のはの いつをいつとか つれなきいろの かはらざるらん(魚の歌合)
大太刀をさしもきみよきふるまひは お家のあらひすずきとぞみる(江戸の花海老)
座頭にせいごのこの子せんだんの ふたばより先みますなるべし(江戸の花海老))

【スズメガイ】
地頭殿とりわけ酒を雀貝 ゑひたる身こそうれしかりけれ(勧学院物語)

【スバシリ】
柊のひいきも多き徳ありて 高きなよしの末は座頭(江戸の花海老)

【セイゴ】→【スズキ】の一歳魚

【タイ】
わすれじとおもふ心のかよわせば などふたたびの契りなからん(精進魚類物語)
いかにして心の水にすみながら おもひはきえぬわが身なるらん(魚の歌合)
見物もわくがごときのうしほ煮は にごらぬ汁のすみかづら哉(江戸の花海老))

【タニシ】
旭さすこうかの山の柴かぢり耳がながくてをかしかりけり(かすむこまかた[菅江真澄])

【タコ】
うすなさけかけてうみかわ契りては くもでひまなくかよふやつあし(魚の歌合)
ひとりでも八つの手うちの新場たこ 祝ふてちよつてしめませうが酢(江戸の花海老)

【タチウオ】
つかのまもみねはみにつくおもかげを なに中だちのおもひきれとや(魚の歌合)
みな様がお取り立てとて新しき 荒事はじめ大太刀の魚(江戸の花海老)

【タラ】
みなれなばむらどりとらんはなれなみ(魚の歌合)*回文の連歌第七句

【ドジョウ】
さぎのゑに身はならばなれおもひがは 一たびあうてうかぶせもがな(魚の歌合)

【トビウオ】
しらむかととびよるよしにもとめきめ ともにしよるよひととがむらし(魚の歌合)*回文

【ナマコ】
なに事もまづはしのぶのころもでを めなれながらもかたみにぞおもふ(魚の歌合)

【ナマズ】
風のふくへさきのおきなおさへかね なまづらさげてこがれゆくふね(魚の歌合)
はなやかに作りし鬚の長ければ ぬめりものとや人のいふらん(魚太平記)
吉例の鯰坊主の顔見世は 末広袖の色もかばやき(江戸の花海老)

【ナヨシ】
ひいらぎのひいきも多き徳ありて 高きなよしは末の座頭(江戸の花海老)

【ハゼ】
ハエとフナとは止めても見たが 止めて止まらぬコヒの魚(いを)ハゼどぶどぶ(郷土研究7−3)

【ハタ】
花道をばつたはた白荒事の くまどる顔も親に煮肴(江戸の花海老)

【ハマグリ】
おそらくはふがひなしともきみならで たれにふまれんこしのうみづら(魚の歌合)

【ハモ】
ながき名やたまのをのまたやなぎかな(魚の歌合)*回文の連歌発句

【ハヤ(ハエ)】
山鳥の おろのはつおの をのづから おもひそめしも 心にて つれなきいろを ちよみぐさ
八ち世しへても からいとの むすぶゑにしや あらざらん 此のよのほかの つみとがと ならんさがみん
くるしさに いきもつきあゑず 物をこそ おもはばおもへ とにかくに 月の鏡や おもかげにたつ(魚の歌合)

【ヒシコ(カタクチイワシ)】
かたつぱしひつしひしこの荒事は げにはかりよき升つなぎかな(江戸の花海老)

【ヒョロロガイ】
へたなれどこしより笛をぬきいだし ひよろろとこそはふきならしけれ(勧学院物語)

【ヒラメ】
またたぐひ波のあら事親玉の 光つたへてにらむこびらめ(江戸の花海老)

【フグ】
きらはるる身をきのどくとおもふにぞ むねはらまでもふくれこそすれ(魚の歌合)*混本歌
こればかりあたり給へと祈るなり われらがてうも贔屓連中(江戸の花海老)

【フナ】
うきなだにみさへはなさへたぢはなの むかしこひしき(魚の歌合)*混本歌

【ブリ】
名物は丹後丹波の鬼とくむ 強みは祖父の名も久しぶり(江戸の花海老)

【マグロ】
生ひ先を祈る心の本まぐろ 葱ははなれぬ産土の神(江戸の花海老)

【マス】
めすといふことばもがもないくとせか ふるかは水におもひますらん(魚の歌合)
見物は日々にみますのうほなれや 紋さへ江戸のおさに入海(江戸の花海老)

【マデ】
まてしばしまはんと座にはゐてたれど かひがひしくも見えぬなりけり(勧学院物語)

【ミゴイ】
水上に散りし桜の流れ来て 浪に花さく淀の川ぐち(魚太平記)

【メナダ】
顔見世に開く花道木のめなだ 今日より周の□□もたて物(江戸の花海老) ※□は原文のまま

【ワニ】
桟敷から落間をかけて一杯に のみこむ許やわにの口々(江戸の花海老)

【読み魚知らず】
鯰尾の刀の鞘の棟打を くろう鯛等が恥ぢいかにせん(魚太平記)

そうもく(草木)

【アオヤギ】
恋ゆゑにまよふはしかのならひなり われみるとても驚きなしそ(朝顔の露)
千代までと育てし君はかれはてて 我はあおやぎたれをみましや(朝顔の露)

【アサガオ】
あさがほの明日をたのまぬたまの緒の たえぬさきにもとはばとへ君(朝顔の露)
あさがほの日かげを待たぬあだし身に 曇りなかけそ空の白雲(朝顔の露)
あさがほのゆふべもしらぬうきの身は いつかこの世をさりてゆかなん(朝顔の露)
いまはきてそのかひあらじのりごろも このよを去りてのちのよにきよ(朝顔の露)
このよこそ契りむなしく去りぬとも 世々の末にはむまれあはまし(朝顔の露)
さきの世にいかなるたねをつきおきて 今のうき身とむまれきぬらん(朝顔の露)
のりごろも きてやきましとおもひしに 君のきたるは恋のころもか(朝顔の露)
わかるとも心は君にありあけの 月へたつとも我もわするな(朝顔の露)
別れじの名残にぬらすわが袖を かたみにも見よ涙乾くと(朝顔の露)

【オグルマ】
もろともに命かぎりにおぐるまの めぐりめぐりてのりの道にも(朝顔の露)

【キク】
あはれをばよその事にぞおもひしに 我が身の上にきくぞ悲しき(朝顔の露)

【サクラ】
みどり子を野原の露となしおきて 老い木桜の残るものうさ(朝顔の露)

【ススキ】
すてられて手なれぬ事のいとすすきも 別れとなれば穂にいづるもの(朝顔の露)

【モミジ】
別れをば何にたとへんもみじ葉の 散り残るみもいつをいつまで(朝顔の露)