虎(トラ)
涅槃図や十王図、六道図などの仏教画には古くからしばしば虎と豹が対になって描かれています。
虎は縞模様、豹は斑点。一見してわかります。
中には豹と虎皮という組合せも見られます(16世紀の出光美術館蔵「六道図」など)。
日本の仏画の伝統かと思ったら、そうではなく、中国の作品にも見られるので、むしろその影響なのでしょうね(よく知りませんが)。
『熊野の本地』の生まれたての王子を取り巻く動物たちは言うまでもなく、『厳島の本地』の古絵巻や『獣の歌合』も起源はそのへんの仏画のイメージを受け継いでいるのでしょう。
そういえば、日本人は虎や豹をリアルに見た人など数えるほどしかいなかったのでしょうか。
『今昔物語集』に朝鮮に行った商船の船員が虎を見た話があり、『吾妻鏡』に朝鮮に亡命した武将の家来が野原で虎を射とめた話があります。清正の話も朝鮮。
結局、大陸に渡った日本人の中でもわずかな人しか見ていないことは確かでしょう。
そのわずかな人が日本の絵仏師にリアルな虎の姿をつぶさに説明する機会があったかといえば、これまた可能性は皆無に近かったのでは。
しかし皮だけならばある程度流通していたようだから、絵師も見る機会はあっただろうと思います。
『信長公記』をみると、贈答品としての虎皮が散見されます。
中には虎皮とともに豹皮も取り扱われております。
室町戦国の輸入品・贈答品の目録や室礼を描きこんだ絵画資料からはそういった獣の皮についての情報が引き出せるんでしょうね。